2014年2月10日月曜日

『感性の限界』




読了。

圧倒的に活字に触れてる量は増えているけど、新書を読んでいないな、と思い、かなり適当に書店で手にとった。


本書は、「限界シリーズ」と銘打って、哲学の伝統的分野に則って
理性の限界 』『知性の限界』と出版されてきた著作の三作目にあたるもの。

第一章 行為の限界
第二章 意思の限界
第三章 存在の限界

という大きく分けて3つのトピックに関する話題が、仮想的な複数の学科に渡る参加者による"シンポジウム"という形で展開されていく。

文体としては他愛のない"世間話"の延長、という体で書かれ、非常に読みやすい。

文体の都合もあり、基本的には各分野(哲学、心理学、行動経済学、進化論、生理学etc)での近現代の思想の見本市という感じで、各々の論については専門的に深く掘り下げることはしていない。

しかしながら、それぞれのトピックに対して、学問横断的に---本文中でも学会の政治的理由もあって学科の越境的な融合は図られることはない、とアイロニカルに書かれるが---様々な思想を紹介している点は見新しく、思想に関しての初心者、かつ学問領域を横断して興味がある読者にとっては、各々のトピックに対する現代の各学問領域の知見を知ることができ、手っ取り早いだろう。


第一章 行為の限界
では、"愛とは何か"という大げさなテーマから、主に行動主義宣言以降の心理学の知見を中心に、生理学や、行動経済学の知見を紹介していく。

個人的にはヒューリスティック処理システムが認知過程の基本システムとして研究されている、という話が新しかった。現象学。

第二章 意思の限界
デカルトに始まる近代哲学における最大のトピックでもある「自由意思」に対する考え方を、主にドーキンスの思想を参照する形で進化論的視点から議論が展開していく。

第三章 存在の限界
第二章を受ける形で、実存の終着たる"死"を巡って、ここでもドーキンスのミーム理論や、実存主義の対立、はたまた軍事論争に至るまで、多岐にわたって触れる。



僕にとっては全章にわたってほぼ新規な情報となる話がなかったので、すっ飛ばしで3時間ぐらいで読めてしまったのだが、逆に今哲学に回顧しようとしているこの時期に、今まで蓄えてきた知識のアタマの中の所在を確認できた、という意味ではよかった。
前著二冊についても目を通してみたい。

あとがきにある、2011年以降の時代に生きる哲学者としての、科学主義に対する素朴な警鐘は印象深い。


前述の通り多分野、学際研究の現代の知見の見本市、という感じなので、今後各々の議論について深めたい読者や、思考の見取り図をはっきりするには、最適かと。



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